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その夜、蓮生が目を覚ましたのは、まったくの偶然であった。
(月が出ていたのか……)
どうりでまぶしいと感じたはずだと、蓮生は座りの悪さを感じながらも格子窓へと目を向けた。
その隙間から輝く光を感じ取ることはできるものの、肝心の光を放つ月の姿を、蓮生の目が映すことはない。
この光を感じることがなければ、こうやって目を覚まさずにすんだものを。
深い眠りから意識を浮かび上がらせるはめになり、つい、そんな気持ちを抱いてしまう蓮生を、月の光は照らし続ける。
「そんなふうに私を照らしたところで、一体何になる?」
思わず、姿の見えない月へと問い掛ける。
(私などではなく、もっと別のものを照らせばいいだろう……)
己を照らしたところで、蓮生には陽(ひ)のように輝きを分け与えることもなければ、光を受けて輝くこともない。
蓮生にできることは、望まれるがまま、この場所に在り続けることだけだ。
受け入れることも、拒むこともできず、ひっそりとそこに在る。
――たとえ、それが蓮生の望みでないとしても。
(そう、私にできることは、何もない)
随分と前からそんなことはわかっていたはずだというのに、改めて思い知らされた気がした。
哀しみはおろか、喜びさえもない。ただ無が広がっているだけだ。
そんな思いとは裏腹に、月は未だに蓮生を照らしている。
「もしも月に手があるのだとすれば、お前は私を……」
その言葉が最後までつむがれることはなかった。
それを口にしたところで、一体何になるというのか。
「何を言っているのだろうな、私は」
自嘲を含んだ言葉は誰に聞かれることもなく、静かに消えていき、その場には静寂が戻った。
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作品のあらすじなどについてはこちらで書いていますので、よければ合わせてご覧ください。
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